アヴェ・マリア
 
シャルル・グノー作曲
G.B.マルデゥーラ類曲
 
 正しい呼び方は、「バッハの第一前奏曲に付せられたグノーの宗教的歌曲アヴェ・マリア」。瞑想曲とも云う。
グノーの歌曲では最もよく知られているもので、色々な形で演奏されているがマンドリンでもコスタンティーノ・ベルトゥッチなどは変奏を伴った独奏曲として出版されている。
 このマルデゥーラの編曲はピアノの伴奏を持った5箇のマンドリンという珍しい形で、作品9番とあるのは、それだけの自負があるのであろう。
マルデウーラは当時(19世紀終りから今世紀初期)ローマに在住したマンドリンの名手で、かのアメリカのマンドリニスト、S.アデルスタインがマンドリン勉学のために渡欧した時(1895年3月)ローマのコスタンツィ劇場でスピネルリの「南方の港にて」の初演の際、その間奏曲にマンドリンを弾き観客に多大の感銘を与えたのがマルデウーラで、この時はイタリア皇帝ウンベルトー世、皇后マルゲリータも臨席、非常な喝采を博し、数曲礼奏しなければならなかったという。
 他に「子守唄」「船歌」「セレナータ」などの作品もあるが、本邦では殆んどその名を知られていないが、相当な弾き手であることが窺われるのである。
 この出版譜のタイトルには、彼の弟子トファーニとチプリアーニに贈られたことが記されてある。
 マンドリンには未出版のまま忘れ去られて了つた歌曲がどれだけあったか計り知れないが、出版譜と雖(いえど)も埋もれて了って僅かに彼地の音楽学校のビブリオテカ或は図書館の倉庫に永遠の眠りを貧っていることを思うと唯々儚(はかな)い思いが募るだけである。



[いる・ぷれっとろ番外編]